6/7/2021_自殺をしなかった理由のようなもの #6

今回で6回目となるこのシリーズは、毎回、「前回なにをどこまで書いたっけ?」ということを確認するところから始まる。こういう確認を毎回しているということ自体が、このシリーズを始めたときのわたしのモチベーションからわたし自身がどんどん遠ざかっているのではないかというむなしさを感じる。もはやわたしにとって、「自死を踏みとどまれたのはなぜか」という問題設定が過去のものとなっているのかもしれない……と書いてみて思ったけれど、なにも自分は「自死を踏みとどまった理由を言語化できるようになったことを発見した驚き」だけでこれを書きはじめたわけではないことをいま書きながら思い出した。いま、どこかで、かつてのわたしのような人がいるならば、過去の自分だけではなく、その人にも届けたいと思ったことが、大きなモチベーションとなっている……と書いてみたものの、どうにもしっくりこないと感じている自分もいる。こんなことをブログで書いて意味があるのだろうか? そういったひどく凡庸な不安が消えることはない。ただ、たとえ誰一人読んでいなかったとして、わたしはこれを書きつづけてみる。

さて、前回は、「廃人のようになっていたわたしも、ほんとうに文字どおりなにもせず何日間も生きていくことはできない。なにかを食べるし、出すものは出すし、世界で起こっていることを完全にシャットアウトできるわけでもない。わたしの活動力はある興味、関心によって、少し回復していった」といった言葉で終わっている。
その興味、関心とは、アニメ、ラノベ、ゲームのことだと記憶している。
完全な、と言いたくなるようなうつ状態(起きているけれどほんとうになにもできずに時間が経過していくのを待っているだけの状態)を、最初、どのように抜け出したかは覚えていない。そのころ飲んでいたSSRIのおかげなのかもわからない。ただ、ちょっとずつ、停滞から抜け出していったのだと思う。

アニメ、ラノベ、ゲームのなかでも、とくに、PC用ノベルゲームへののめり込み具合は、なにかへの信仰心を抱いている状態に近かった。家族とろくに話さず、ネット上で知り合った知人とアニメやゲームのことでチャットし、それ以外の時間はアニメ、ラノベ、ノベルゲームをする時間に費やしていた。アニメやゲームの音が部屋に流れていないときは、音楽を聴きつづけた。「いまここ」ではない世界にずっとひたっていたかった。言い方を変えると、それ以外にはろくになにもしなかった。

そして、わたしは新作ゲームを買いたいがために、内職を始めた(ひょっとしたら、内職とうつ状態の順番は逆かもしれないが、いずれにせよ、高校2年のときのできごとだったと記憶している)。そして、高校2年の終わりごろ、おそらく2月ぐらいに、『クイズマジックアカデミー2』というアーケードゲームに興味を持ち、ゲーセンに行くために外出する回数が増えた。

それまでは月に2回ぐらいしか家を出なかった。通信制高校のスクーリングのときだけだ。スクーリングの帰りは、必ずといっていいほど秋葉原にも行った。言い方を変えると、秋葉原は当時のわたしにとってとても魅力的な街だったが、卒業するために最低限必要なスクーリングに行くという機会でもなければ、そこに行くことはあまりなかった。それぐらい、家からは出なかった。ファッションコンプレックスもあったため、自分がいつも周りから笑われているんじゃないかと他人の視線が怖く、スクーリング以外で家を出るときは、かならず夜だった。空が明るいうちに外に出ることは難しかった。

少し脱線するけれど……上記のような状態だから、スクーリングの前日の深夜は、名のしれない恐怖に襲われた。スクーリングはかならず金曜日だった。だから、木曜日深夜は「もうきょうで世界が終わってほしい」といつも願っていたんじゃないかと推測する。スクーリングの前日だろうが、もちろん深夜アニメはリアルタイムで観ていた(当然、遅刻した回数など覚えていない)。だから、あの時期の木曜深夜のアニメのOPやEDは、いまでも聴くだけで涙が出てくる。

さて、そんなわたしが、クイズをするために、スクーリングがない日にも外に出るようになった。さすがに最初のころは夕方や夜に行っていたんじゃないかと思う。そのうち、昼間にも出るようになったのかどうかは覚えていないけれど、ここで重要なのは、ゲーセンに通いそこでゲームに興じるということは、とてもお金のかかることだということだ。わたしはクイズをするために(もちろん、買えるゲームを増やすためにも)、高校3年の4月ごろに、とうとうアルバイトを始めた。書店でのアルバイトだった。求人募集は出ていなかったから、レジに立っている人に、求人中かどうかを直接聞いた。たまたまだけれど、その人は店長だった。履歴書を持ってまた来て、といったようなことを言われたのだと思う。どのような気持ちで履歴書を書いたのか、面接ではどんな話をしたのか、いまではもう明確には思い出せない。ただ、あの日のレジに立っているのが、そして面接をしたのがあの店長でなければ、わたしはアルバイトを始められていなかった可能性はある。

書店のバイトを始めるようになって、わたしはいままでの分を取り返すかのように外に出た。とにかくシフトをたくさん入れた。クイズをするために、そして「いまここ」ではない世界へ行くために、たくさんのお金が欲しかった。もしかしたら最初からいきなりそんな勢いはなかったかもしれないけれど、半年もかからないうちに、毎日のように外に出るようにはなっていたんじゃないかと思う。大躍進といえる。まだ仕事のしの字も心得ていなかったわたしは、ときには、シフトに入っていない日まで仕事先に行って、先輩と話をしたりした(ただの迷惑なやつだ)。

けれど、クイズとバイトによって外出する機会は増え、新しい人間関係も始まったことは、新しいストレスとどう付き合っていくかという問題と対峙しなければならないことを意味した。次回はリストカットの話に入れるんじゃないかなと予測している。きょうはここまで。

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