そういえばこの日は雨でした

2023年5月29日(月)、下北沢SHELTERという、いまでは『ぼっち・ざ・ろっく!』のロケ地としても有名になったライブハウスで、「湯処violencePOP」というライブイベントが開催された。前半は代代代さん、後半はDJ後藤まりこさんが出演した(評論などでは敬意を払いつつ敬称略とする慣習があるけど、わたしはつい「さん」をつけてしまうことがしばしば。というか、そもそもこれは評論じゃない)。

わたしはこの日のために仕事を休んだのだけど、出発前に持病のせいで身体が思うように動かなかったり、ほかにもあれやこれやがあって、家を出るのがだいぶ遅くなってしまった。結論から言うと、代代代さんのライブは体験できかなかった……。SHELTERは地下にあるのだけど、わたしがSHELTERについたときにはちょうど入り口の階段のところでタバコを吸っている人たちがいて、嫌な予感がした。予感は的中した。中に入ってみると、ちょうど転換の時間だった。恥ずかしながら、わたしは代代代さんのことをほとんど知らなかったのだけれども、だからこそライブをとても楽しみにしていた。未知のものに、心は躍る。それになにより、ライブイベントの途中から参加というのは、なんだかとても失礼な振る舞いに思えた。ごめんなさい……。

転換が終わり、後藤さんの音が、音楽が流れはじめた。大幅に遅れてしまったという申し訳なさと残念な気持ちが残ったままの身体が、音に反応して少しずつ動くようになってくる。そして後藤さんが登場。曲が始まり、それからあとは精神も身体も後藤さんのパフォーマンスと後藤さんの曲にゆだねるだけ。というより、脳がそのように勝手に反応する。わたしにとって音楽はふだん飲んでいる抗うつ剤などよりもダイレクトに心と体にがつんとくるもので、この世界のゲームバランスを崩すような、チートのようなもの。この世界なんてもともとゲームバランスのおかしいバグだらけのゲームだととらえることもできるから、そういう意味では、むしろそのおかしさを吹き飛ばしてくれる、わたしをいっときでも救済してくれるものだといえる。さらに、これはライブ。もちろん家で音源を聴いているだけでも救われる。けれど、これはライブ。音圧も、響く空気も、なにもかもが違う。ここ最近はいろいろなことで心がなかなかにつぶれていたから、「replay ATAMI」や「おばけ」が流れるころには目に涙すら浮かべてた。世界から解放される時間は瞬く間に過ぎていった。

物語と音楽がなかったら、わたしは20代でいまのパートナーと出会う前に確実に死んでいたと思う。実際、自殺未遂の経験が一度ある。自傷も10代後半からパートナーと出会うまで断続的に続いた。2000年代後半の話。後藤さんの曲には、そのころに出会った。

後藤さんの存在と後藤さんの曲は、わたしにとってあまりにも大きい。とっても尊敬していて、あこがれている。ライブのあとに後藤さんと話せる機会があって、そうした気持ちを感謝というかたちで伝えようとしたのだけれど、うまく伝えるには言葉を知らなさすぎた。ありがとうございますは言えてたと思う。ほんとうに、いつもありがとうございます。

わたしは音楽のよさそれ自体を伝える言葉をもってないから、青臭い自分語りにしかなっていないと思うけど、もしなにかのきっかけでこれを読む人がいたとして、まだ後藤さんの曲を聴いたことがないのなら、ぜひ一度聴いてみてほしい。「後藤まりこ」「DJ後藤まりこ」「後藤まりこアコースティックviolence POP」など、いくつかの名義があります。ぜひ。